標準偏差と標準誤差の違い|実験レポートでどちらを使うか
2026-10-06
先に結論
| 標準偏差 | 標準誤差 | |
|---|---|---|
| 何を表すか | 1回1回の測定値のばらつき | 平均値の不確かさ |
| 測定回数を増やすと | ほとんど変わらない | 小さくなる |
| 使う場面 | 測定のばらつきそのものを示すとき | 「平均 ± 誤差」で結果を報告するとき |
実験レポートで「測定値は 」のように結果を報告するときは、標準誤差を使うのが基本です。
両者はよく混同されますが、答えている問いが違います。標準偏差は「次にもう1回測ったら、どれくらいずれそうか」、標準誤差は「いま求めた平均値は、本当の値からどれくらいずれていそうか」です。
標準偏差とは
回の測定値 と、その平均 から次のように求めます。
ではなく で割るのは、平均 自体をデータから求めたぶん、ばらつきが少し小さく見積もられてしまうのを補正するためです。こうして求めた を不偏標準偏差と呼びます。実験データには通常こちらを使います。
標準誤差とは
平均値の不確かさは、標準偏差を で割って求めます。
で割るのは、何回も測って平均を取ると、測定ごとの偶然のずれが打ち消し合うためです。考え方は誤差伝播と同じで、 個の値の平均に誤差伝播の式を当てはめるとこの形になります。
計算例:棒の長さを15回測った
ノギスで同じ棒の長さを15回測りました。
10.2 10.5 9.8 10.1 10.4
9.9 10.3 10.0 10.6 9.7
10.2 10.1 10.4 9.9 10.3 (単位 mm)
計算すると次のようになります。
| 量 | 値 |
|---|---|
| 測定回数 | 15 |
| 平均 | 10.160 mm |
| 標準偏差 | 0.264 mm |
| 標準誤差 | 0.068 mm |
レポートに書くときは、誤差を1〜2桁に丸め、平均の末位をそれにそろえます(詳しくは有効数字の扱い方)。
どちらの誤差を使ったか、何回測ったかを必ず添えてください。 だけでは、読む人は標準偏差なのか標準誤差なのか判断できません。
測定回数を増やすと何が変わるか
同じデータの最初の5個だけで計算した場合と比べます。
| 標準偏差 | 0.274 mm | 0.264 mm |
| 標準誤差 | 0.122 mm | 0.068 mm |
標準偏差はほとんど変わりません。ノギスの読み取りや棒の当て方によるばらつきは、何回測っても同じだけあるからです。
一方、標準誤差は小さくなります。 に反比例するので、測定回数を4倍にすると、平均値の誤差はちょうど半分になります。逆に言えば、誤差を半分にするには4倍の手間がかかります。精度を上げたいときに「回数を増やす」より「測定方法を改善して を小さくする」ほうが効く場合が多いのはこのためです。
信頼区間との関係
「真の値がこの範囲に95%の確率で入る」と言いたい場合は、標準誤差に係数をかけて95%信頼区間にします。測定回数が少ないときは、正規分布の1.96ではなく 分布の値を使います。
のとき、自由度14の 値は なので、
となり、95%信頼区間は です。
学生実験では「平均 ± 標準誤差」で十分なことがほとんどです。理論値と比べて「誤差の範囲で一致した」と主張したい場合に、信頼区間まで示すと説得力が増します。
Excel での求め方
| 求めたいもの | Excel の関数 |
|---|---|
| 平均 | =AVERAGE(A1:A15) |
| 標準偏差(不偏) | =STDEV.S(A1:A15) |
| 標準誤差 | =STDEV.S(A1:A15)/SQRT(COUNT(A1:A15)) |
STDEV.P と取り違えないよう注意してください。 STDEV.P は で割る母集団の標準偏差で、「データが全数そろっている」場合のものです。実験の測定値はたまたま得られた一部(標本)なので、STDEV.S を使います。上の例では STDEV.P だと になり、少し小さく出ます。
標準誤差を一発で返す関数はExcelにありません。SQRT(COUNT(...)) で割るのを忘れて、標準偏差を「誤差」として書いてしまう間違いがよくあります。
よくある間違い
1. 標準偏差を「平均の誤差」として書く
平均値の不確かさを 倍も大きく報告することになります。15回測った例なら約3.9倍です。
2. どちらを使ったか書かない
グラフのエラーバーも同じです。図のキャプションに「エラーバーは標準誤差を示す()」のように明記してください。書き方はグラフの体裁ガイドにまとめています。
3. 測定回数が2〜3回なのに標準誤差を信じすぎる
が小さいと、標準偏差そのものの見積もりが不安定です。3回測ってたまたま値がそろうと、誤差が非常に小さく出てしまいます。測定器の目盛りから決まる誤差(読み取り誤差)と比べ、大きいほうを採用するのが安全です。
4. 系統誤差を標準誤差で表そうとする
標準誤差が小さくなるのは偶然のずれが打ち消し合うからです。ゼロ点のずれのような系統誤差は、何回測っても打ち消し合わず、標準誤差には現れません。
まとめ
- 標準偏差は1回ごとの測定のばらつき、標準誤差は平均値の不確かさ
- レポートで「平均 ± 誤差」と書くときは標準誤差。どちらを使ったかと を必ず添える
- 測定回数を4倍にすると標準誤差は半分。標準偏差はほとんど変わらない
- Excel では
STDEV.Sを使う。標準誤差はSTDEV.S(...)/SQRT(COUNT(...))
エラーバーとしてグラフに描く方法はExcelでエラーバーを付ける方法で解説しています。